x86最後の闘い

Apple Silicon速いですよね。いや、発売から5年ぐらい経過しているのに何言ってんだという感じですが。

DRAMを同じチップに搭載して省電力であるとか、x86のエミュレーション用の専用拡張あったとか、GPUとのユニファイドメモリが良かったとかいろいろ新機軸があったと思うのですが、一番の特徴はパフォーマンスコアのシングルスレッド性能だったと思うわけです。 今でもシングルスレッド性能ベンチマーク結果の上位には並み居る大電力CPUを押しのけて、Apple Silicon M5が鎮座しています。

現代のプロセッサにおいての速さの意味

マルチコアが常識化してから20年以上が経過して、日常的なアプリケーションで十分にマルチスレッド化が進んだ現代においてもクライアントアプリケーションの体感速度を決める要因としてシングルスレッド性能は無視できない要素だと考えます。 アムダールの法則を引くまでもなく分割困難な問題というのは存在して、ユーザー操作に対するレスポンスはこの問題の典型だからです。

そして、Apple Siliconはその最初のモデルであるM1のパフォーマンスコア(Firestorm)のシングルスレッド性能は当時としては頭一つ抜ける性能でした。

シングルスレッド性能はクロックを速くする、高速かつ低レイテンシーのキャッシュを大量に搭載する(これは問題による)、マイクロアーキテクチャを改良するという方法などによって向上させることができます。 このうち、前の2つについては低消費電力のプロセッサということもあり、現実性がありません。 そのためマイクロアーキテクチャが優れていたとされています。

M1(Firestorm)の速さの秘密

M1はリリース直後から様々な分析をされており、その内部のパイプラインは非常にリッチな実行ユニットを持っていることが分かっています。 実行ユニットを複数用意して同時実行するというスーパースカラの考え方自体はx86でもPentiumの時代から使われており、年々ユニット数を増やしてきました。 Arrow Lakeなどに搭載されているPコアであるLion Coveだと実行ポート数は18にもなります。 そのため、実行ユニット数の多寡だけではApple Siliconのシングルスレッド性能を説明するには十分ではありません。

M1はリリース直後の分析でもその巨大なROBが注目を集めました。 現代のプロセッサは実行する命令を実行ファイルのバイナリに書かれた通りの順番には実行しません。 実行ユニットの状況に応じて適宜順番を入れ替えて、実行ユニットをなるべく遊ばせないようにすることで効率化します(Out-of-order実行、OOO)。 ROBとはReOrder bufferの略で、このOOOをするための候補を保持するためのバッファです。 この範囲が広いほどより広い範囲の命令を入れ替え候補とすることができ、実行効率を向上させることができます。 M1のFirestormでは600命令分以上あることが知られています。 後発のLion Coveで576、Zen 5だと448とされているのでその大きさが目を引きます。

ROBを増やせばいいのか

ではなぜ、x86_64の後発のプロセッサはROBを増やさないのでしょうか。 Apple SiliconがROBを増やしてシングルスレッド性能を上げたのだから、同じように増やせばいいように思えます。 しかし、x86_64では単純に増やしても意味がないことが分かります。

OOOでは実行時に命令の順序を変更して、実行ユニットをなるべく遊ばせないようにします(=IPCを上げる)。 しかし、何も考えずに順序を入れ替えると実行結果が変わってしまうため、順序が入れ替えられるのは命令が関係するデータに依存性がない範囲に限られます。 例えば、同じレジスタを触る命令同士は順序を入れ替えられないなどです。 逆に別のレジスタを操作する命令同士であれば、干渉しないため順序を入れ替えられる可能性が増えます。 プロセッサの命令スケジューラはデータ依存性を事前に解析して、依存関係を解決したうえでROB内での候補から順序を入れ替えて実行します。

ここで、x86レジスタの少なさが問題となります。 x86はもともとレジスタが8個しかなく、x86_64になったタイミングで16個に拡張されましたが、ARM64の31個に比べると大幅に少ないです。 また、レジスタ数以外に算術命令が2オペランド命令であることも足を引っ張ります。 2オペランド命令とは、命令が二つの引数しかとらないという意味です。

アセンブラでの例を挙げます。

mov     rcx, rax

上記の例では、rcxレジスタとraxレジスタを足して、その結果をrcxレジスタに格納します。 レジスタ数が少ないときには必要な命令ですが、命令同士のデータの依存性を少なくするという観点では望ましくありません。 3オペランド命令はこれに対して、結果と加算対象の2つのレジスタを取ります。

add x3, x2, x1 ; x3 = x2 +x1

これらの制限があるため、x86ではむやみにROBを増やしても実行性能を向上させることができず、IPCも向上しません。

Intel APX, FRED

当然Intelもこの状況を座視しているわけではありません。 APXという新しい命令拡張を発表済みです。 この拡張では汎用レジスタの倍増(16->32)と3オペランド形式が採用されました。 既存のバイナリは再コンパイルしないとこの恩恵にあずかれませんが、この変更はかなり有望に見えます。 この拡張によって条件としてはARM64とほぼ揃うことになり、命令セットのでのギャップはかなり小さくなります。 90年代前半にはRISCCISCのどちらが優秀かという論争がありましたが、当時言われていたx86の命令セットの欠点を30年を経てようやく修正したのかとも感じます。

そのほかにも、Intel FREDという割り込み周りの動作を整理する変更も提案されています。 この変更にはLinus Tovaldsも割り込み処理に関する歴史的しがらみが無くなることを評価しています。

あとは、実際のプロセッサが出てくることを期待するわけですが、残念ながら昨今のIntelは業績が芳しくありません。 例えばx86アーキテクチャの古い機構を整理することを期待されていた、x86-Sは仕様策定段階で放棄されました。

実際の製品への搭載が期待されるのは、Nova LakeでAPXがサポートされるのではないかと言われています。 Nova Lakeは2026年初頭に発売予定のPanther Lakeのさらに次に発売予定です。 楽観的なスケジュールではNova Lakeも2026年後半には出るではないかと言われているので、あと1年以内に出る可能性があります。 これは、時間との勝負になりそうです。

Intel FREDについても、AMDと共同して行っている Ecosystem Advisory Groupで標準化の方向が発表されています。 FRED自体は現行のx86の複雑な割り込み機構を整理することが期待されますが、性能への寄与はそれほど大きくないと思います。 割り込み時のCPUサイクル数の削減は期待できますが、かなり限定的なマイクロベンチマークでも取らないと判明しない水準だと思います。

APXについてはAMDがサポートするのか、するとしたらいつなのかは今のところ明らかではありません。

まとめ

64bit拡張から20年ほど経過していますが、個人的にはAPXはx86に登場する最後の大幅拡張ではないかと考えています。

昨今のx86プロセッサは世代ごとにIPCが10%改善すればいい方で、世代間で数パーセントの改善であることもあります。 今回の改善は再コンパイルこそ必要なものの、体感できるレベルでの向上が期待できるのではないかと思っています。

自分の職能について決めてしまわないこと

おじさんになるとキャリア論を語りたくなる。その一環です。

私は長くインターネット業界で働いていて、主にWebサービスのインフラを担当していました。何度か転職しましたがいずれも日本の会社でした。役職はいわゆる「インフラエンジニア」という仕事です(SREなんていう洒落た役職は当時はなかったのだ)。本職のプログラマほどはコードを書けないけど、Unix/Linuxは学生の頃から使っているし、自分では「仕組み」を理解するのが得意だと思っていたので天職だと思っていた。

当時はオンプレミスの利用が大半だったが、あるサービスでクラウド上でサービスを提供することになった。海外展開だったり、サービス開始までのリードタイムが短かったりでオンプレミスが適さないということでクラウドを使うサービスがちらほら出てきた時代。既にクラウドを使うことは特別に先進的な取り組みではないけど、まだまだオンプレミスを使うことも普通だった。自分が準備したクラウド上の構成はオンプレミスの構成をそのまま持っていくような内容だったけど、自分の仕事が今後どうなっていくのか大いに考えさせられる体験だった。ただちに自分の仕事が無くなることはないが、少なくとも職域が狭くなっていくのだろうとは実感させられた。

そんなタイミングで転職エージェントから外資クラウドサービスのサポートエンジニアへ応募してみないかという連絡を受けた。転職エージェント自体にあまり良い印象がなかったこともあるが、当初はそれほど乗り気でもなかった。懸念は2つあった。一つは自分が外資企業に入ることができるのか、入ってちゃんと仕事ができるのか。今でも同じだが日本の標準的な英語教育を受けただけで社会人になってから英語を話す機会はなかったので、明日から英語で仕事ができるかと言われたら大いに疑問だったからだ。もう一つは「サポートエンジニア」という職種への自分の中で低く見る意識があったためだ。

そもそも私は普段の仕事でサポートのお世話になることは滅多になかった。サーバーハードウェアなど提供元に聞かないことには解決しない問題はともかく、OSSなどは自分たちでコードを読めば解決できると思っていたし、それが自分たちの仕事の価値だと思っていた。インフラエンジニアは裏方ではあるが、実際のビジネスを支えているという自負もあった。それに対してサポートエンジニアは実業に対して関与していると言えるのか、そんな職種に移ってしまって良いのか。一度その職種に移ってしまったらもう実業に戻れなくなるのではないかと悩んだ。

結局、9年ほど前にその会社に転職したわけだが、私のキャリアにとって大正解だったと思っている。

外資系とはいえ日本オフィスの職種なので仕事の大半は日本語でできるし、上司も日本人の日本語話者だった。社内手続きの大半も日本語でできるが、業務上で英語を読み書きできる必要はある。よく言っていたのは「英語が喋れないのは問題ないけど、使う意思もないのは問題」というレベル感だった。コミュニケーションの意思さえあれば、日本の学校での英語教育を下の中程度で低空飛行していた私でも何とかなる程度という意味だ。

仕事の内容については基礎的なQ&Aはもちろんあったが、重要なところで求められるのはトラブルシュートのスキルだった。何らかの問題があり、それが発生した構成要素などから動作を理解して原因となる要因を列挙して、得られたログやメトリクスなど客観証拠からそれらの要因を絞り込むという作業だ。何のことはない、これはインフラエンジニアで行っていた仕事だ。ただしクラウドサービスの問い合わせ対応なので自分の作ったサービスではない環境で発生した問題についてのトラブルシュートとなる点、その数とバリエーションが膨大である点が違った。インフラエンジニアのトラブルシュート部分を大幅に拡大したような仕事だった。インフラエンジニアをやっていても延々とトラブルシュートをやることはないと思うが、原因追求が好きな人には向いている仕事だと思った。

現在はこの会社のサポートエンジニアを離れて別の会社で異なる職種で働いているのだけど、あの転職は私のキャリアにとって大きな転機になったと思っている。 その上で、このような記事を書こうと思った理由はいくつかある。最近、身の回りで大きなキャリア上での決断をした人がいたことが大きい。その人は私も驚くようなキャリアチェンジをされて私がいかに狭い範囲の選択肢しか考慮していなかったかを実感させられた。

それ以外にも日本のITエンジニアの給与がもっと上昇するべきだという思いもある。外資企業は日系企業に比べて高給を出すというイメージがあるかもしれない。実際その側面はあるかもしれないが、外資企業の多くが見ているのはその市場で人材がどの程度の給与を貰っているかというところ。例えばその国で600万円でITエンジニアが雇用できるのに、2000万円も出す必要はないという判断をするわけである。より高い給与が得られるポジションに移ることは市場価格全体を押し上げる効果が期待できる。最近は日本企業も給与を上昇させているが、諸外国のITエンジニアの給与水準には遠く及ばないのが現状だ。誰しもが転職するべきだとは思わないが、少なくとも転職する意思がある人はもっとチャレンジをしても良いのではないか。

「自分は日系企業でしか働いたことがないので」「自分はWebサービスのインフラしかやったことがないので」とあまり自分を自己定義しない方が良いというのがこの記事の趣旨である。

最後に9年前に転職した会社の募集ページを貼っておく。私は前述の通りこの会社を離れているので紹介制度で応募を中継することはできないが、現役社員に繋ぐことは可能です。

サポートエンジニアリング | AWS Japan Recruitment

LE Audioが一向に立ち上がらない

一番最初に LE Audio の話を聞いたのは2020年頃だったと思う。

【本田雅一のAVTrends】次世代Bluetooth音声“LE Audio”は、ワイヤレスイヤフォンのなにを変えるか? - AV Watch

曰く、現在の Bluetooth Audio での必須コーデックとされる SBC より低遅延かつ同一ビットレートで音質劣化の少ない Bluetooth LE をベースにした新しいプロトコルが策定中でもうすぐ製品が出るという話だった。それからもう4年ほどが経過しているが、製品はほとんど出ていない。イヤフォンもヘッドフォンも対応製品はほぼなく、Sony の LinkBuds S がファームウェアアップデートで後日対応するという話で発売されいたぐらい。最新のファームウェアのリリースXperia 以外でも使えるようになってようやく実用になるかと思いきや、手元の環境ではかなり安定性に難のある使用感だった。

この種の製品はチップメーカーが対応するラインナップを揃えさえすれば、イヤフォンメーカーは一気に対応が進むと思っていた。対応チップ自体はラインナップにあるのだが、使用している製品が市場にほぼないようだ。怪しい中華メーカーも含めて採用事例をほとんど見ない。何となくの予想だが相互運用性に問題があるのではないか。

LE Audio というか LC3 を使う製品は専用のドングルと合わせたヘッドフォンという形で売っていたりする。しかし、Bluetooth に期待するのはスマートフォンや PC に気軽に繋げることなので、この製品自体は私が期待するものとちょっと違う。

av.watch.impress.co.jp

AppleAirPods で LE Audio に対応する予定も全然聞かないので、iPhone での LE Audio の対応はあまり期待できない状況。Android は OS 側には対応が13ぐらいから入っているようだけど、イヤフォン側の製品が少ないためかあまり積極的にアピールしている雰囲気がない。もうすぐ15が出そうだというのに。

Bluetooth LE 自体は地味にマウスなどでも使われており HID over GATT 対応の製品は BLE を使っている。対応 Bluetooth のバージョンを指定している製品などは BLE を使っているはずだ。GATT を使う製品が出たての初期はドライバなどの対応が怪しかった時期もあったと記憶しているが、すぐに使えるようになった。LE Audio も早くそうなって欲しい。LE Audio の話を聞いて以来、次に購入するイヤフォン・ヘッドフォンは対応製品にしようと思ってから3年ほどが経過してしまっている

2050年のメディア、読了

面白いと評判だったので読んだ。タイトルの「2050年の」というのはあまり意味がなくて、実際には過去30年ほどの新聞とインターネットについて勝たれており、2050年に向けた未来の話ではなかった。過去を知って未来を語ろうということだけど、それは本書の外の話なのだろう。それを差し引いてもちゃんと取材したノンフィクション物として面白かった。ページをめくるごとに全面広告を見せられたりしない情報源として「本」が案外便利である、などと最近はジョークのネタにされたりする。この本もまさにちゃんとお金を出して買った本の良さを実感する。本書の内容もどうやって情報に適価で消費者に届けるのかという話なので、通じるものがある。

個人的な関心事としてここ数年、ちゃんとした情報にはお金を払っていくべきだろうという思いがある。とことんインターネットは情報のマネタイズが不器用なメディアだが、だからこそ消費者としてちゃんと情報にお金を払って行くべきだろうという考えが日増しに強くなっている。先日もインターネットで新聞社の有料会員になるべく各社のプランを比較などしていた。そのときにも読売新聞は特に保守的なサービスラインナップだと思ったが、この本はその読売新聞にフォーカスしている。あとは有料化が軌道に乗っている日経新聞とヤフージャパンが主軸になっている。

私は野球に興味がないので途中で語られる清武の乱の話などは唐突すぎると感じた。読売新聞と巨人が密接な関係なのは理解できるが、あれって必要でしたかね。私よりも若い世代はもっと野球に興味がある人が減っているので、紙の新聞以上に退潮傾向になっていくのではないか。

ニュース自体のインターネットでのマネタイズ自体は90年代から色々と試みられている。この分野での草分けであるImpressですら全く成功しておらず(最初期のInternet Watchが有料のメルマガをやっていたのはどれぐらいの人が覚えているだろうか)、サイトは年を追うごとに広告まみれになっている。あの状態が健全とはとても思えないんだよなぁ。日経の取り組みは少し未来を感じるけど、ストレートニュースは本当にどうすりゃ良いんでしょうね。ストレートニュースを記事にする機能は誰かが担う必要はあるはず。

マウスピース歯列矯正をしていた

矯正自体は終わって、随分経過しているのだけど記録の意味も込めて書いておこう。この記事はアフィリエイト記事ではない。

歯列矯正をやっていた。マウスピース矯正、固有名詞としてはインビザラインというやつである。自分ではそれほど歯並びが悪いという認識はなかったのだが、アイルランドに住んでいたときなど欧米人と直接顔を合わせる機会が多かったので彼らのお金のかかった歯を見ていると自分ももうちょっと改善したほうがいいかもしれないと思ったのが動機だった。日本に帰ってきてから生活が落ち着いてから近所の歯科医で歯列矯正をお願いしてみた。その歯科に掛かる前にも別の歯科で定期検診のついでで歯列矯正をやりたいのだがと相談したが「(年齢的にも)困ってないならやらなくていいよ」という感じでスルーされたが、今回のところはインビザラインの認定医がいるだけあってやる気を出してくれた。

インビザラインとは簡単に言うとマウスピースによる歯列矯正である。3Dプリンタで出力されたマウスピースは最短で1週間単位で交換してくことで、一度に大きく動かす必要がないので痛みが少ないというのが売りである。通常の金属等による矯正ではこまめに受診したとしても数週間以上ごとになるので、その分の移動量を一気に力をかけて動かすことになる。歯は通常でも完全に固定されているわけではなく、0.25mmぐらいの余裕があるそうでその範囲内で動かしていくと痛みがないと説明された。実際には1週間でその分の移動が完了しないまま次に進むと痛みはそれなりにあった。

最初は腔内を3Dスキャナで撮影して、その結果に基づき計画を立てる。コンピュータ上のシミュレーションで現在の状態からどのように歯を動かしていくのかを説明してもらえる。私の場合は30週弱で完了する計画だった。

最初の1枚のマウスピースはとりあえずスキャンした結果に基づき作っただけのもの。これをつけて違和感に慣れる必要がある。マウスピースは食事のとき以外は常時つけていることを求められる。24時間のうち20時間ぐらいつけているのが理想だそうだ。もちろん寝ているときもだ。口に何かを入れたまま寝るというのは普段の生活では滅多にやらないため、最初は違和感がすごくて寝付きが悪かった。

その時の仕事はわりと人前で話をする場面があったが、マウスピースをつけたままだとかなり話しづらい。なるべく着けたままで喋るようにしたが、どうしてもというときは外して喋ることもあった。在宅勤務が多い時期だったので、取り外しも問題がなかった。オフィスだと人目があるので大変だろう。

最初のマウスピースで問題なければ、次は歯にアタッチメントという突起を付けてもらう。樹脂製の小さい突起でマウスピースが歯を動かすときの取っ掛かりとなる。どこにどのような形状のアタッチメントを付けるかはシミュレーションで計算されているようだ。アタッチメントの形状もその場で作るのではなく工場で出力されているのを取り付けしているみたい。小さい突起を接着剤で計画通りに設置していく、力がかかりそうな場所なのにちゃんと固定されるのは接着剤が優秀なのだな。1個外れてつけ直してもらったことがあるが、大半は最後まで問題なかった。歯の外側に突起ができるので、口の中を怪我するのではないかと思ったが食事のときなどでも特に支障はなかった。普段はその上からマウスピースを着けるのでそちらの違和感の方が強い。

アタッチメントを付けてからはその部分が凹んだ専用のマウスピースをつけていく。私の場合は全部で30個弱あったのでまずは10週分ほど渡された。各マウスピースは当然カスタムメイドで、それぞれが少しずつ歯を移動させるように専用に出力されたものだ。時系列で並べると歯を移動させていく様子がわかる。 マウスピースは痛みのない範囲で動かすといっても10個分ともなれば数cmは動かせそうだが、実際には回転が絡むので水平移動はそれほど大きくなかった。

食事のときは外して食べるのだけど、飲み物はそのまま飲むことになる。マウスピースは染色しやすいので色の強い飲み物はなるべく飲まないようにと言われていたが、私は面倒なので普通に飲んでいた。案の定微妙に色がついてしまったが、各週のマウスピースは使い捨てなので無視することにした。

一週間で次のマウスピースに切り替えていくので、切り替える曜日を決めてその曜日になったら次のマウスピースを開けて切り替えるというのをひたすら続ける。本当は歯の動きが悪いときには期間を少し伸ばすのが良いらしい。私は早く終わらせたかったので7日間で確実に次に進めていた。その結果、前述の通りときどき歯の痛みは発生した。朝歯がじんわり痛くて目が覚めるということもあった。

規定の枚数を全部使い切ると続きのマウスピースを貰いに行き、同時に検診をする。それを繰り返して半年ちょっとで終了した。 最後にアタッチメントを取り外して保定用のマウスピースを作ってもらう。矯正が終わっても放置しておくと元の状態に徐々に戻ってしまうためである。常時つけておく必要はないが、寝ている間はつけておくように言われる。

歯の移動自体は問題なく進んだが、私は寝ている間に噛みしめる癖があるためマウスピースにより歯が沈み込むという問題があった。マウスピースを着けた状態での沈み込みは奥歯がより強く影響を受ける。そのためマウスピースをしていないときの上下のかみ合わせが前歯のみ当たり、奥歯同士は触れ合わないという形になった。これはよくある症状のようで、前歯のみの保定具も作ってもらった。しばらくはそれを着けていた。この症状はその後慣れてしまったのか普通のマウスピースを着けて寝ても発生しなくなってきた。

すべてが終わってから最初の週に作ったマウスピースを見ると歯並びがぐちゃぐちゃだったことが実感できる。自分では少なくとも前歯に関してはそんなに酷くないと思っていたが、今とは比べ物にならない配列だった。当然そのマウスピースは今はもう着けられない。外からは見えないものの奥歯の並びに問題を感じていたが、そこもかなりマシになった。次はホワイトニングを行う予定である。

AIはコンピュータ業界にとってどれぐらいの変化か

AIはインターネットと同じぐらいのインパクトがあると思っている。

インターネットの登場前後でコンピュータはその立ち位置を大きく変えた。スマートフォンなどがあって初めて成立する形態のコンピュータだし、PCのソフトウェアでもインターネットの影響を受けていないソフトウェアを探すのが難しい。影響の程度はアップデートをネット配信するだけから、インターネットへの接続が前提の薄いクライアントソフトから様々である。ただ、コンピュータの使い方と形態を決定的に変えた。AIも同程度の変化をもたらすとしたら、コンピュータの使い方を決定的に変化させる予感がある。

インターネットの一般への普及が90年代半ばぐらいから開始されたとすれば、30年ぶりぐらいの大きな変化である。現代のインターネットの普及度合いや使い方は普及当初に予想されていた内容とはかなり乖離があるように思う。当時からウェブブラウザが主力であったけど、今は廃れたアプリケーション(NetNewsやらGopher、Archie、Castanetなどなど)による挑戦もあった。動画配信がいずれ実用化するという予想はあったものの、ユニキャストで動画をばら撒くことがこんなに一般化するとは思わなかったし技術に詳しい人ほど悲観論を唱えていた。技術的課題は普及することのパワーで解決してしまうものである。AIも様々なアプリケーションがチャレンジしているが、実際にはその少数のみが生き残って成長していくのだろう。今は普及初期特有の無秩序はいずれ収まり、洗練されていくはずだ。残った枝は力強く技術的課題を解決していく、20年ほど前に見た光景である。

The Computer Chronicles というアメリカの古いテレビ番組が面白い

タイトルのままなんだけど、The Computer Chronicles というアメリカの公共放送(PBS)で放送されていた番組が面白い。番組事態は 1983年から2002年まで放送されていた。つまり 20年以上前に終了済みである。現在は Internet Archive 経由で YouTube の専用チャンネルにアップロードされており、ほぼ全編が見られる。 www.youtube.com 80年代前半といえば、PC はあったが MS-DOS の初期リリースがされたばかり(1981年)で実用的な用途としても PC が使えるようになっていった時期でもある。

Intel 386 についての特集回では Unix が動くことをデモするために複数のコンソールからログインしてみたり。PC Unix はその後の LinuxFreeBSD が出るまであまり普及しなかったという認識なのだけど、結構期待されていたのだな。Intel の担当者が最後に AI についての期待を語っているのは現代と変わりがない。実際にその後の影響を考えると宣伝は過大ではなかった。 www.youtube.com

93年には早くもインターネットが取り上げられており、日本でのメディア露出よりも1年ぐらい早いのではないか。さすがにこの時期のアプリケーションは Gopher とかなので時代を感じる。 www.youtube.com

93年には Digital Photography も特集していた。「今後はデジタル写真が重要になる」と熱く語られていたが、予想よりは遅かったかもしれないが実際にそうなった。直接撮れるデジタルカメラはかなり希少で画質も十分ではなかったので、Photo CD などが使われていたようだ。QV-10 よりも前の時代だったしね。PhotoShop で画像を編集する様子などを見ていると30年前からさほど変わっていないなと感じる。 www.youtube.com

90年代後半はもちろん Windows が普及していった時代だが、Windows 98 の特集回で同時に Linus のインタビューを行っているのは先見の明がある。98年にはすでに IBM とかが OSS にベットしていたので、既に勢いはあったがまさか世界中の携帯の半分以上に搭載されるとは思っていなかっただろう。あと Linus がまだ若い www.youtube.com

84年に前回(あるいは前々回)の AI ブームも取り上げている。「40年後ではデータ量と計算量でぶん殴って解決したよ、そんでグラフィックチップ屋さんが大儲けしているよ」と冷やかしたいところだが、スタジオゲストに John McCarthy が出てくるあたりが侮れない。 www.youtube.com

MC は Stewart Cheifet というジャーナリストの方が行っている。Co-host として専門家の Gary Kildall も居たもののスタジオでのやりとりを見ていると本人も技術を理解して質問していたと思う。現代よりも専門性が高く、動きも激しかった時代に長きに渡って番組を続けられたものだ。 日本でもコンピュータをテーマにしたテレビ番組がいくつも有ったのは知っているが、このような形でアーカイブされているのだろうか。